PRLはヒト大腸がんの転移巣で高発現し、がんを悪性化させる分子として知られています。私たちはPRLの標的分子としてCNNMという膜タンパク質を見つけ、それがMg2+の膜輸送トランスポーターであることを明らかにしました。特に腸上皮で発現するCNNM4の遺伝子欠損マウスの解析から、CNNM4が食物からのマグネシウム吸収に働くことを見つけています。さらに腸ポリープを自然に形成するマウスでCNNM4遺伝子を欠損させることで、上皮層から筋層に浸潤した悪性のがんが多数形成されることを明らかにしました(図1)。このMg2+調節異常とがん悪性化の関連についてさらに解析を行っています。
<図1> 遺伝子改変マウスでの腸の組織断面像。遺伝的に腸上皮にポリープを多数形成するマウスにおいて、CNNM4遺伝子を欠損させると上皮層に留まっていたポリープの細胞が悪性化して、筋層に浸潤したがんになっている(右写真中の矢印)。
上皮細胞でのPRLの機能を詳細に解析するため、培養系での実験に汎用されているMDCK細胞でPRLを誘導発現したところ、正常細胞で取り囲まれた状態の時に特異的に細胞形態が大きく変化しました。また一部の細胞では底面側のマトリックスゲルに潜り込む様子も観察されています。このことはPRLを発現する細胞としない細胞の間で何らかの相互作用(コミュニケーション)が起こり、その結果として浸潤などの現象が誘発されている可能性を示唆しており、その分子機構の解析を進めています。
多細胞生物の生体内組織は一般にin vitroでの培養が困難ですが、腸上皮組織に関しては生体内を模した細胞外マトリックスのゲルの中で3次元培養する方法(オルガノイド培養)が最近開発されており、生体内と同様に細胞が分化して単層の組織からなる立体の構築物を作ることが知られています(図2)。このオルガノイド培養系を利用して、正常な腸上皮組織内での増殖や分化におけるPRL/CNNMの働きや、腸上皮からのがん化における役割について解析しています。
<図2> 腸オルガノイド培養。ゲルの3次元空間内で上皮シートから成る立体の構築物をつくる。